祖母が世話を焼いていたお地蔵さまのことを町内会の誰かが思い出した。町内の有志が集まり新しい前掛けを着せて祠の掃除をしたところ死の連鎖がピタリと止まった

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呪われた森>祖母が死んだ直後に町の6人が連続死


祖母が死んだ直後に町の6人が連続死

その大きな玉虫を捕まえたのは、今(2018年)から39年前のことだという。

当時、八王子市内の公立小学校の1年生だった池田敬冶さんは、7月下旬のある晴れた日の朝、通学路沿いにある屋敷の塀で光る物体を見つけた。駆け寄っていったら、図鑑でしか見たことのない玉虫だ。頭からお尻まで20センチもあることには驚いたが、紡錘形の形といい、金属光沢のある緑色に赤い筋のある体色といい、玉虫そのものだった。近づいても逃げなかったから、簡単に捕まえられた。カブトムシなどは捕まえるとジタバタ暴れるのに、それはとてもおとなしかった。見れば見るほど綺麗な生き物で、これはすぐに祖母に見せねばならないと思った。池田さんが心から慕う肉親は、この世に祖母ただひとりだった。というのも、彼が生まれると同時に両親が離婚し、父も母も彼を扶養できなかったため父方の祖父母に引き取られたのだが、祖父は結核で徴兵検査に落ちたときから無為徒食の人で、祖母が働きながら彼を育てたので……。つまり、祖母だけが、肉親の情をもって彼を愛してくれたのだ。巨大な美しい虫の腹のあたりを両手で掴んで持つと、硬くてひんやりした感触がてのひらに伝わった。胸を高鳴らせながら、池田さんはさっき出てきたばかりの家に駆け戻った。「ばあちゃん! 玉虫をつかまえたよ! こんなに大きいの! 見て!」息せき切って報告したが、祖母は孫と巨大な昆虫を見た途端、顔を曇らせた。「それは玉虫じゃないから、元いた場所に返してきなさい」いつになく厳しい口調で命じられたので、池田さんは渋々、捕まえたところに戻った。そこは溶岩石を積んで出来た塀の一部で、塀の内側に生えた大木の幹の下の方が外に飛び出しているところだった。大木を傷めないように飛び出た幹の左右を包むように石が組まれており、見つけたとき、玉虫は木の根の股が洞(うろ)になったあたりにいた。同じ場所にそっと置くと、玉虫はバイバイと手を振るように触覚を動かした。その日は学校にいる間中、玉虫のことが頭を離れなかった。でも、なぜか友だちには言ってはいけない気がした。

下校時に再び玉虫を放したところを見てみたら、虫を置いた根っこの洞に、ヒラヒラした白い紙切れを付けた棒が突き刺してあった。何年も後になって、それは神事で使われる御幣だと池田さんは知った。また、背丈が伸びて140センチほどの高さの塀の内側が覗けるようになったら、幹に巻かれたしめ縄を見ることができるようになった。しかし、そのときの幼い池田さんにはそんなことはわからず、ただ怖くなっただけだった。それは、神社やお寺に行ったときに感じるのと同じ種類の怖さだった。だから、なんとなく、あの玉虫は神様だったのだろう、そして祖母にはそれがわかったのだろうと思った。池田さんによると、その木は今でもしめ縄も御幣も付けたまま、同じようにそこに立っているそうだ。「ばあちゃんには不思議な力がある」と、玉虫のエピソード以来、池田さんは確信するようになった。

祖母は週4日、市内の工場に勤務しながら家事も育児もすべてこなす多忙な暮らしの中で奇跡のように時間を作って、毎日欠かさず近所のお地蔵さまをお参りしていた。お地蔵さまは屋根と柱だけの質素な祠に庚申塔と一緒に納められ、児童公園の一角にあった。水やお菓子を供えたり、季節が変わるごとによだれかけと帽子を新調してやったり、拭き清めたりと、雨の日も雪の日も、祖母はかいがいしくお地蔵さまに奉仕した。「どうしてそんなに一生懸命お世話をするの?」と、ある日、池田さんが訊ねると、祖母はこう答えた。「お地蔵さまは子供だから、誰かが世話をしてあげなくちゃいけないんだよ」

祖母が若い頃、生後1週間で長男を喪っていたことを知ったのは、祖母が亡くなった後だった。玉虫の頃には祖母はまだ50歳そこそこで、老人ではなかったことにも、彼女が永久の旅路についた後で思い至った。彼が中学校3年生の春に、祖母は還暦を迎えたばかりで逝ってしまった。するとその直後から、町内会の人々が相次いで亡くなりはじめて、2カ月も経たないうちに5人も死んだ。そこで町会長が、自身が氏子になっている高尾の氷川神社に皆で行ってお祓いしてもらおうと集会で提案した。ところが町会長自身が、集会があったその日の晩に急死して、お祓いに行く計画はうやむやになってしまった。しかし、ほどなく、祖母が世話を焼いていたお地蔵さまのことを町内会の誰かが思い出した。町内の有志が集まり、新しい前掛けを着せて祠の掃除をしたところ、死の連鎖がピタリと止まった。このお地蔵さまは、現在でも誰かの手によってきちんと保たれているそうだ。

(出典参考 TOCANA)
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